落語と拍手

 「中村仲蔵」という落語の演目がある。
中堅どころの役者、中村仲蔵に歌舞伎忠臣蔵への出演依頼が来る。
端役なので気乗りのしない仲蔵が、それでも工夫をして、
画期的な役作りをして、舞台に上がる。
 さて、観客の反応は…
 仲蔵は客の反応がまったくなかった、大失敗と思い、
上方へ逃げ出す準備をする。
 そこへ、師匠から呼び出しがあって、実は大受けだったことがわかる、
という粗筋。
 観客は、あまりの凄さに息を飲むばかりで言葉が出なかった、
ということなのだが、何か腑に落ちない思いがあった。

 後日、「後家殺し」という落語を聞いた。
「後家殺し」というのは、義太夫などの演者への掛け声の一つ。
枕にそんな解説があって、「昔は拍手なんてものはありませんでした」
という言葉に、なるほど!

 拍手という習慣があれば、仲蔵の勘違いは起こらなかった。
仲蔵の時代には拍手という習慣がなかったから、仲蔵は勘違いをした。
なるほどと得心。
 だけど、息を飲んでる状態だったら、拍手もできないのかも…
いやいや息を飲んでいても拍手ならできるのでは…
悩みはつきません。