長塚節と藤沢周平

 藤沢周平を読み続けていた頃、『白き瓶』という、長塚節のことを書いた長編小説を買いました。でも、かなりの長編で、そんなに楽しい作品ではないだろと思って読まずにおいたのを、読んでみたら面白かった。ただ、長塚節歌人だということを知りませんでした。長編小説『土』を書いた人という知識しかありません。『土』にしても、作品そのものよりも、むしろ、夏目漱石の序文の「私はこの本を子どもたちに読ませたい。楽しいからではなく、苦しいからこそ読ませたい」といった内容の方を覚えています。
 『野菊の墓』の作者の伊藤左千夫も重要な役回りで頻出する(人物像としては、伊藤左千夫の方が存在感がある)が、この人が歌人だということも忘れていました。そういえば牛乳屋さんだったことをうろ覚えに覚えていた。
 で、『白き瓶』は、少しも楽しい作品ではない。だが、去年、文庫本の新装版が出たほど人気があるのだそうだ。「苦労をしたい人」が案外多いらしい。日本人が好む作品なのだろう。だったら、『土』も読まれているのだろうか。
 『白き瓶』の内容の重さ、硬さが『土』に似通っているのは、長塚節つながりのせいだと思っていたら、どうやら、藤沢周平長塚節に深い愛着をもっていて、小説を書く上で長塚節から学んだこともあるらしい。
 解説によれば、小説の場面を緻密な自然描写で始める書き方は、長塚節と共通とのことなので、いずれもう一度『土』を読んでみたい。恐々と。
 余談。藤沢周平の自然描写は曲者で、あれに慣れてしまうと、他の小説はみんなスカスカに感じてしまう。スカスカだけど、『御宿かわせみ』は面白かった。そんな流れで買った畠中恵という人の時代小説はスースーしていてかなり涼しい。まあ読めるけど、次は買わない。
 その舌の根も乾かぬうちに、畠中恵の『しゃばけ』シリーズ、文庫の全作品読了。あらま。